H29 問04
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解説
磁化曲線(BH曲線)に関する問題です。
磁化曲線は、ある物体周辺の磁界を変化させたときに、物体内で生じる磁束を表しています。
コイルに電流を流すと、電流の強さに比例した磁界が空間中に発生します。
その磁界中に物体を置くと、物体の透磁率に応じた磁束が物体内に現れます。
周辺の磁界に対して\(B=\mu H\)という関係で磁束の量が決まります。
しかし、周辺の磁界の大きさに応じて、磁束がどんどん増えていくわけではありません。
磁束の振る舞いは透磁率だけでは決まらず、物体のもつ磁気特性に依存します。
この透磁率以外の物体のもつ磁気特性を、表したものが磁化曲線になります。
磁化曲線が示す物体の磁気特性には以下のポイントがあります。
- 周辺の磁界\(H\)が小さい領域では、物体の透磁率\(\mu\)に比例した磁束\(B\)が生じる
- 周辺の磁界\(H\)が大きくなると、磁束\(B\)は透磁率\(\mu\)に比例しなくなり、傾きが小さくなる(飽和傾向になる)
a)この状態になると、物体内で磁界\(H’\)が生じる
b)物体内で磁界\(H’\)が生じると、周辺の磁界\(H\)を0にしても磁束が残る
→この磁束を"残留磁気"という
→周辺の磁界\(H\)を0にしても、磁束\(B\)は元の0に戻らない。この特性を、“ヒステリシス特性"という - 周辺の磁界\(H\)を負の方向に変化させていくと、磁束\(B\)は小さくなっていき、ある点で磁束\(B\)も磁界と同じ向きになる。
→磁束\(B\)が0になるときの周辺の磁界を“保持力"という
周辺の磁界が大きくなると、物体内の磁束が変化しにくくなり、ヒステリシス特性が見え始めます。
この状態になると、周辺の磁界を小さくしても残留磁気として磁束が残ります。
磁束を0にするためには、さらに磁界を印加する(保持力)必要があります。
永久磁石を作る場合、このヒステリシス特性が強く見える物質が好まれます。
一旦外部から大きな磁界を加えば、その後は周辺の磁界がなくなっても、磁石自身が磁界を発生させることができるからです。
一方で、ヒステリシス特性が強く見える物質は交流の電気回路では好まれません。
磁化曲線が描く曲線の面積がそのまま熱になるからです。(これをヒステリシス損といいます)
そのため、コイルのインダクタンス\(L\)を大きくしたり、トランスにより電気エネルギーを磁気エネルギーに変換するために
使用される物質はヒステリシス特性があまり強くないものが選ばれます。
磁化曲線に関する問題は出題される内容が決まっているので、丸暗記でも構わないのですが、
物理的な意味をきちんと理解しないと、透磁率や磁気回路と結びつきません。
電磁気学で用いられる理想的な磁気特性と、実際の物質が示す磁気特性の架け橋となるのが磁化曲線です。
磁気の理解を深めるきっかけになれば幸いです。