H28 問15


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解説

三相交流に関する問題です。

H27の中では最高難易度の問題です。
他のB問題(問15-18)と比較してみても、
この問題だけ難易度が突出しているように感じます。

設問(a)

設問(a)から重めです。
以下の2点を気をつけながら、計算を進めていきましょう。

・とにかくスター変換
・電流\(I\)は変換前後で変化するので、デルタ結線のときの気持ちを忘れない

計算はスター結線でどんどん進めていきますが、アウトプットはデルタ結線だった時の値に換算する必要があります。

スター結線とデルタ結線を行ったり来たりしますが、迷子にならないように気をつけましょう。

<断線前の電流を求める>
問題の回路図には電源のシンボルはありませんが、各線間電圧が\(V\)となっているので、
デルタ結線で電源部分の回路を作ります。(添付画像の左のページの上部)

※デルタ結線では線間電圧=相電圧(電源部分の電圧)となります。
 したがって、線間電圧が分かっていれば、デルタ結線で回路を作ってOKです。

電源と負荷でデルタ結線で表すことができたので、どちらもスター結線に変換します。

電源のデルタースター変換
$$\frac{1}{\sqrt{3}}V_{\Delta}=V_{\rm{Y}}$$

抵抗のデルタースター変換
$$\frac{1}{3}R_{\Delta}=R_{\rm{Y}}$$

変換した回路が添付画像の左のページの中央部のものになります。

スター変換ができると以下の恩恵が受けられます。
(1)単相の交流回路に分解できる
(2)負荷の中点\(O’\)から電源の中点\(O\)までの戻りの電流\(I=0\)と考えてよい
(3)中点間の電位差\(V{o-o’}=0\)と考えてよい

ただし、これらの恩恵が受けられるのは三相の電源と負荷の対称性が保証されている場合です。
この問題のように断線が起こっている場合は、スター結線の恩恵は受けられません。

設問(a)ではまず断線していない場合の電流を求める必要があるので、
素直に恩恵を受けて計算を進めます。

添付画像の左のページの中央部分の単相の回路より、電流\(I’\)を導出すると以下のようになります。
$$I’=\frac{\frac{V}{\sqrt{3}}}{r+\frac{1}{3}r}=\frac{\sqrt{3}V}{4r}$$

次に\(I’\)と\(I\)の関係について考えます。
スター結線では線間電流と相電流(抵抗に流れる電流)が一致します。
従って、スター結線後の電流\(I’\)はデルタ結線の線間電流と一致します。

キルヒホッフの電流側より点\(a’\)の電流の式は以下のように表せます。
$$I’=I_{a’b’}-I_{c’a’}=\sqrt{3}I_{a’b’}=\sqrt{3}I$$

以上の計算より、電流\(I\)を線間電圧\(V\)で表すと、
$$I=\frac{1}{\sqrt{3}}I’=\frac{V}{4r}$$
となります。

<断線時の電流を求める>

続いて、断線時の電流\(I_v\)を求めます。
(ここからようやく設問(a)の後半です。頑張ってついてきてください)

引き続き、スター結線の回路で計算を進めますが、
求めるのはデルタ結線の場合の電流なので、
電流の種類を区別するため、断線時のデルタ結線の電流を\(I_v\)、スター結線の電流を\(I_v’\)と定義することにします。

先のスター結線の回路(添付画像の左のページの中央部)より、
断線部だけ無視した回路を考えます。(添付画像の右のページの上部)

三相交流が欠相している場合、先に挙げたスター結線の恩恵は以下のようになります。
(1)単相の交流回路に分解できない
(2)負荷の中点\(O’\)から電源の中点\(O\)までの戻りの電流\(I=0\)と考えてはいけない
(3)中点間の電位差\(V{o-o’}=0\)と考えてはいけない

要するに先の恩恵は一切受けられないということです。(大事なことなのであえてリストにしました)

つまり、欠相した回路では、位相が異なる交流電源を複数有する交流回路の計算をするだけです。

これがめちゃくちゃめんどくさいわけです。

一般的な交流回路の問題は負荷の特性により、負荷側の電圧の位相が変わる場合を考えます。
しかし、電源側に位相が異なる交流電源がある場合、常に電源が作るベクトルを意識した計算が必要になります。

もう一度言います。めちゃくちゃめんどくさいです。

どれだけ電気回路を理解しても、このめんどくささは変わりません。

すごく頭のいい数学屋さんならどうってことないのかもしれませんが、
そんな人は電気屋さんにはなりません。

こればっかりは電気屋さんは誰もが頭を抱える問題だということだけ覚えておいてください。
(私なら即座に電気回路のシミュレータで解析にかけます)

では、解説に戻ります。

まず、\(a’-c’\)端子間に印加される電圧を考えます。
2つの電源\(\dot{V_a}\)と\(\dot{V_c}\)が作る電圧\(\dot{V_{ac}}\)を考えます。
ベクトル図を使って\(\dot{V_{ac}}\)を表すと、添付画像の右ページの上部(回路図の下)のようになり、
\(|V_{ac}|=V\)となります。

あとは、経路間の抵抗の合成インピーダンスとオームの法則を用いて、電流\(I_v’\)は以下のように表せます。
$$I_v’=\frac{|V_{ac}|}{r+\frac{1}{3}r+\frac{1}{3}r+r}=\frac{3V}{8r}$$

さて、ようやく求めることができた\(I_v’\)ですが、思い出してください。
この電流はスター結線の場合の電流です。
ということで、デルタ結線の電流\(I_v’\)に換算します。

\(a’-c’\)端子間の抵抗の構成をデルタ結線に戻します。
添付画像の右のページの上部(全体の回路図の横)が変換前の抵抗部分の回路になります。
線間電流\(I_{a’c’}\)は\(I_v’\)と一致します。

並列回路の分流比が抵抗の逆比となることを考慮すると、\(I_{a’c’}\)と\(I_v\)の関係は以下のようになります。
$$I_{a’c’}:I_v=1:\frac{1}{3} \rightarrow I_v=\frac{1}{3}I_{a’c’}=\frac{1}{3}I_v’$$

従って、断線時のデルタ結線の電流\(I_v\)は、
$$I_v=\frac{I_v’}{3}=\frac{V}{8r}$$
となります。

以上より、断線前後の電流\(I\)の倍率は、
$$\frac{I_v}{I}=\frac{\frac{V}{8r}}{\frac{V}{4r}}=0.5$$
となり、これが設問(a)となります。
(ここまでついてきてくださった方、本当にありがとうございます)

設問(b)

さて、ようやく後半戦の設問(b)となります。

添付画像の右ページの下部になりますが、このあっさりした回路図とベクトル図には
たくさんの思いが詰まっているので以下で解説していきます。

添付画像の右ページの下部(左側の回路)より、断線部分の電圧を考えます。
このとき、基準電位は中点\(O\)としておきます。

断線部分の左側には電源\(\dot{V_b}\)があります。

断線部分の右側には、抵抗\(r\)と\(r/3\)が直列に接続されて\(O’\)につながります。
断線部分のインピーダンスは\(\infty\)なので、これら抵抗は無視することができ、
断線部分の右側には\(O’\)に印加される電圧がそのまま観測されます。

点\(O’\)には電源\(\dot{V_a}\)と\(\dot{V_c}\)によってできる電圧の
ちょうど半分の大きさの電圧が印加されます。
(点\(O’\)は対象に並んだ抵抗の真ん中に位置するため)

以上まとめると、断線部分の両端電圧は以下の要素で構成されます。

断線部分の左側:電源\(\dot{V_b}\)
断線部分の右側:電源\(\dot{V_a}\)と\(\dot{V_c}\)によってできる電圧の半分

この情報をもとに、断線部分の電圧をベクトルで作図したものが、添付画像の右ページの下部(右側のベクトル図)になります。
電源\(\dot{V_a}\)、\(\dot{V_b}\)、\(\dot{V_c}\)の位相が120°ずつ回転している(三相交流回路のお馴染みのベクトル図)ことを意識して、
先に挙げた断線部分の左側と右側の構成要素をもとに、ベクトル図を作っていきます。

その結果、
$$V_{bO’}=\frac{\sqrt{3}}{2}V$$
という結果が得られ、断線部分に発生する電圧の倍率は、
$$\frac{V_{bO’}}{V}=\frac{\sqrt{3}}{2}\sim 0.87$$
となります。

感想

欠相時の三相交流回路に関する情報がたくさん詰まった問題です。

この問題を「なんで?」がなくなるまで熟考すれば、三相交流回路のレベルはかなり上がると思います。

自身がある方はステップアップのためにじっくりと考えてみてはどうでしょうか。
参考になれば幸いです。