H27 問11


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解説

半導体レーザ(レーザダイオード)に関する問題です。

電気主任者の業務からはかなり縁が遠い問題ですが、
私が好きなので半導体レーザの仕組みについて解説したいと思います。

レーザとは

レーザとは英語でLASERと表します。
このLASERとはLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光の増幅)の略です。

この誘導放出という部分がキーワードになりますので後述します。

ちなみに半導体レーザとLEDは似ていますが仕組みがちょっと違います。
LEDはLight Emitting Diode(発光ダイオード)の略です。

どちらも光るんですが、半導体レーザはLEDに比べて、パワーが強く、指向性があります。
ほわっと光るのがLED、レーザポインタのようにビーム状に光るのが半導体レーザです。

またレーザは周波数のQ値がLEDに比べてはるかに高く周波数の標準器としても使用されます。
周波数の標準器とは、すごく精度のいい時計と考えてもらって構いません。

原子時計、GPS、重力波計測などはレーザが使われており、時間と距離の高精度計測が実現されています。

半導体レーザの構造

半導体レーザは添付画像の図のように活性層をp型半導体とn型半導体で挟む構造になっています。
この構造はダブルヘテロ構造と呼ばれます。

p型半導体からn型半導体へ電圧を印加することで、活性層からレーザ光が放出されます。

活性層がレーザの特徴を決めるのですが、以下の性質をもっています。

(1)透明である(光を吸収しにくい)
(2)p型半導体である(多数キャリアがある)
(3)活性層が発光色を決める
   例えば、GaInNは青紫~緑、AlGaInPは赤色、AlGaAsは赤外線となります。

発光の仕組み

添付画像の半分より下の部分で半導体レーザの発行の仕組みについて説明しています。

半導体レーザに電圧を印加(p型からn型へ順方向バイアス)すると、以下のようなプロセスでレーザ光が発生します。

(a)素子内でp型半導体からn型半導体へ電流が流れると、活性層で再結合が生じる。

再結合とは正孔と電子がくっつくことです。

(b)再結合により活性層内に励起した原子ができる。

励起するとはエネルギーがUPした状態と考えてもらって構いません。

再結合が起こると、その仲介役となった原子は電気的には通常の原子と変わりませんが、
もともと電子と正孔が持っていたエネルギーを受け取るので、エネルギーの状態が変化します。

このエネルギーがUPした状態を励起といいます。

(c)時間が経つと、励起した原子は光を放出して元のエネルギー状態に戻る。

励起した状態というのはエネルギー的に安定した状態ではないので、
その状態を永遠に維持することはできず、原子は時間が経つと余分なエネルギーを外部に放出します。

これを脱励起、または基底状態に戻るといいます。

(d)活性層内で脱励起が発生し、たくさんの光が放出される。
   また、電流が流れることで再結合も発生し続け、励起した原子も発生し続ける。

(b)の再結合による励起した原子の発生と(c)の脱励起による光の発生が繰り返されます。

(e)活性層の両端はミラー(鏡)になっているので、光は活性層に蓄えられる。

脱励起により光はどんどん発生するのですが、活性層の両端がミラーになっているので、
光は活性層内に閉じ込められます。

(f)活性層内で発生した光が共振し、増幅される。

活性層の幅が光の波長の倍数になるように作っておくと、活性層が共振器となり光はどんどん増幅されます。

以上のプロセスから半導体素子の中では以下のような状態変化が起こります。

(半導体レーザに電圧を印加する)→(再結合と脱励起により光が生成される)→(光が増幅する)

私たちの身の回りの自然現象はエネルギーを変換すると、
変換後のエネルギーは元の状態に比べて小さくなります。

しかし半導体レーザ内では(f)の状態になったとき、

(供給する電流のエネルギー)<(素子内の光エネルギー)

という関係が成り立ちます。

供給エネルギーに比べて、変換後のエネルギーが多くなる状態を反転分布といい、
このような仕組みでエネルギーを取り出すことを誘導放出といいます。

以上のプロセスを経て、活性層の一部から溢れて外部に放出される光がレーザ光となります。

また、レーザ光の面白い特徴として、外部に放出される光は位相が揃っていて、
時間的に見たときに周期的に変化しているだけでなく、
どの位置で光を観測しても周期性が保たれています。

レーザ光は時間的、空間的に位相が揃っている電磁波であり、このような状態をコヒーレントな状態といいます。

電気回路で扱い交流電源や無線通信で使われる電波は時間的に位相が揃っていても、
空間的には位相はバラバラなので、コヒーレントな状態とはいえません。

コヒーレントな状態とは、誘導放出という特殊な条件で生成されたレーザ光がもつユニークな特徴になります。

ということで半導体レーザについて、思う存分お話させていただきました。

電験で今後取り上げられることはないかもしれませんが、
私たちの生活の中で一般的になってきたレーザとはどういうものなのかを知ってもらいたく、
できるだけ定性的な説明でまとめてみました。

半導体っておもしろそうだなと思ってもらえれば幸いです。