R01 問03
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解説
ヒステリシスループ(磁化特性)に関する問題です。
問題で積層した電磁鋼板の鉄心という難しい言葉が出てきますが、
トランスの導線が巻き付けてある鉄の塊のことです。
たくさん磁束を吸ってくれる鉄の塊だと思ってもらえばいいです。
トランスにどういう電圧/電流/周波数を設定すればいいかを考えるための問題です。
オームの法則じゃなくて、ヒステリシスループも気にしないと、
トランスが熱くなっちゃうよということをこっそり教えてくれています。
さて、問題や添付画像に描かれるグラフは"磁化曲線"と呼ばれます。
横軸が\(H\)(磁界の強さ\([A/m]\))、縦軸が\(B\)(磁束密度\([B/m^2]\))を表しています。
ざっくりいうと、\(H\)は電流と関係があり、\(B\)は磁束と関係があります。
添付画像の中央左側の図が磁化曲線を描くための実験装置になります。
電流の変化に合わせて、鉄心内の磁束が変化していきます。
磁化曲線では、この電流(磁界の強さ)の変化による磁束(磁束密度)の変化を表しています。
ポイントは、電流(磁界の強さ)をどんどん大きくしていくと、磁束(磁束密度)の変化が小さくなっていくことです。
磁束の変化が小さくなるとき、鉄心内で磁界が発生し、電流による磁束の変化を抑えようとしています。
この磁界は電流を0にしても消えないため、電流を0にしても、磁束(残留磁化)が観測されます。
この特性をヒステリシスと言います。
そこそこ大きい振幅で電流(磁界の強さ)を交流的に変化させると、
電流(磁界の強さ)の変化に合わせて、磁束はひし形のような軌道を描いて変化し続けます。
この軌道をヒステリシスループと言います。
このヒステリシス特性は、電流に抵抗するように仕事をするため、鉄心内で熱に変わります。
すなわち、ヒステリシスループが大きければ大きいほど、熱の量も大きくなります。
従って、ヒステリシスループの面積が鉄心の発熱量を決めることになるため、
トランス設計で気にしないといけない要素になります。
前置きが長くなりましたが、ポイントは以下の3点です。
- 磁化曲線は、電流(磁界の強さ)の変化による磁束(磁束密度)の変化を表している。
- 電流を大きくしていくと、磁束の変化が小さくなり、ヒステリシスループが発生する。
- ヒステリシスループの面積の大きさは電流の大きさに依存する。
これら3つのポイントを踏まえて、問題を解説していきます。
磁気曲線中でコイル電流が最大となるのは、磁界の強さが最大になる点のことなので、問題の図中の(ア)2が解となります。
次に、電圧実効値が一定でかつ周波数が小さくなった場合、鉄心を含めたコイルのインピーダンス\(\dot{Z}=j\omega L\)の値が小さくなり、
結果として電流が大きくなるので、ヒステリシスループの面積は(イ)大きくなります。
次に、周波数が一定でかつ電圧実効値が小さくなった場合、電流が小さくなるので、
ヒステリシスループの面積は(ウ)小さくなります。
最後に、電流実効値が一定の場合、電流に変化がないためヒステリシスループの面積は(エ)あまり変わらないとなります。
問題で出てくる磁化曲線は見たことはあるけど、何を意味しているか分からないという方はいらっしゃると思います。
(私は最近まで分かっていませんでした。)
磁界の強さと磁束の違いが分からないことが原因だと思っていて、うまく解説している資料があまりにも少ないと感じています。
(普通の人に理解できないようにわざと難しく書いているんじゃないかと感じます)
磁界の強さという言葉に惑わされず、(磁界の強さ)=(電流)と考えても影響はないです。
解釈の違いだけで、物理的な役割に差はないと私は思っています。
磁化曲線とトランス(鉄心)を結びつけてくれるいい問題だと思います。
磁束のイメージをつかむきっかけになれば幸いです。