H29 問18


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解説

演算増幅器(オペアンプ)関する問題です。

増幅演算器を含む電子回路では以下の2つのルールを守るようにしましょう。
-端子と出力がつながっているとき、
(1)\(v_-=v_+\)  (2)\(R_{in}=\infty\)

この2つのルールを総じてイマジナリーショート(仮想短絡)と言います。
\(v_+\)と\(v_-\)の電圧は同じになりますが、
\(v_+\)と\(v_-\)の間のインピーダンス(抵抗)はすごく大きく、端子間で電流が流れません。

電気回路に慣れている方は、このルールを不思議に感じるかもしれません。
演算増幅器自体の特性とー端子と出力がつながっていることでこのようなルールができあがります。
(興味がある方は自動制御を勉強していただくと、イマジナリーショートの理由が紐解けます。)

設問(a)について

さて、増幅演算器のこの2つのルールを使って、設問(a)を解説していきます。

問題より、\(v_o/v_i\)の大きさを求める必要があるのですが、
あまり難しく考えず、オームの法則をもとに、回路の電流の式をたてていきます。

まず、増幅演算器のルール(1)を使うと、\(v_-=v_i\)となります。
\(v_-\)とGNDの間に抵抗\(R\)があるので、電流は\(I=v_i/R\)と表せます。

つぎに、\(v_o\)と\(v_-\)の電位差を使って、電流の式をたてます。
\(v_o\)と\(v_-\)の間に抵抗\(\alpha R\)があるので、電流は\(I=(v_o-v_i)/\alpha R\)と表せます。

出来上がった2つの電流の式から、以下の式が出来上がります。
$$ \frac{v_i}{R}=\frac{v_o-v_i}{\alpha R}$$

式変形をしていくと、\(v_o/v_i = 1+\alpha\)という関係が得られます。
問題より、\(v_o/v_i = 3\)なので、設問(a)の解は\(\alpha =2\)となります。

設問(b)について

設問(b)では回路が一気に複雑になります。

どこから手を付けるべきか判断が非常に難しいのですが、
問題の記述 "発振の条件を用いて" という部分がこの問題を解く糸口となります。

といってもこのキーワードをどう使うか分かっていないとお手上げです。
(過去10年の電子回路の問題の中で最高難易度だと思います。)

発振の条件というのは、入力電圧\(v_i\)の位相と出力電圧\(v_o\)の位相が同相になることです。

***少し細かい話をします。手間だと感じる方は読み飛ばしてください***

この演算増幅器の回路は-端子と出力を接続しています。
この接続をネガティブフィードバックといい、
入力電圧\(v_i\)に合わせて、出力電圧\(v_o\)を調整するという働きをしています。

補正をうまく行うには、入力電圧が変化したあとに、
ちょっと時間がたってから出力電圧が入力電圧に追従するように変化するという
制御が必要になります。

設問(a)では、この制御がうまくいっていて、
入力電圧に追従して出力電圧が変化するようになっています。

一方、設問(b)では、出力端子と+端子の間に、抵抗やコンデンサが接続されています。

この部分は、入力電圧に追従して出力電圧を変化させるという役割はせず、
入力電圧がちょこっと変化したのを見て、出力はこのくらい変えておけばいいだろうと
予測をして出力を調整するような制御を行います。

良かれと思って調整をするのですが、調整に失敗すると、
出力電圧がふらふらと揺れてしまう発振という現象を引き起こします。

予測をするという制御は、出力電圧を入力電圧より時間的に先に変化させているということです。
位相という言葉に置き換えると、出力電圧の位相は入力電圧よりも進んでいるという表現になります。

つまり、入力電圧\(v_i\)の位相と出力電圧\(v_o\)の位相が同相になるという状態は、
発振するかどうかの瀬戸際を表しているということになります。

***細かい話おしまい***

同相であるという条件をうまく使うために、
設問(a)のように\(v_o/v_i\)という関係、または\(v_i/v_o\)という関係を式で表します。
入力電圧と出力電圧の比を回路の"ゲイン(増幅率)"と呼びます。

このゲインが実部だけ(虚部が0)になれば、入力電圧と出力電圧は同相だといえます。

添付画像の左のページの下部より、ゲインの計算をしています。
ここでは\(A_Z=v_i/v_o\)とし、式変形を行っています。
(\(A=v_o/v_i\)としたほうが計算が簡単な気がしました。興味がある方は試してみてください。)

実部と虚部に成分が分けるように式変形を進めていくと、
\(Im(A_Z)=\omega CR(1-\omega^2C^2R^2)\)という形が得られます。
(ここで\(Im(A_Z)\)はゲイン\(A_Z\)の虚部ということを意味しています)

あとは、この部分が0になるとし、周波数\(f\)を求めていけば、解が得られます。

設問(b)は非常に難しいです。
しかも施設管理を目的で電験三種の取得を目指している方にとって、
業務で増幅回路の発振について考えることはまずないので、
面白そうだなと思って、この記事を読んでいただく程度で十分と思います。

ただし、設問(a)のような演算増幅器の問題は定期的に出題されます。
解説の最初に挙げた演算増幅器の2つのルールはきちんとおさえておきましょう。